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侵略

 地球にエイリアンがやってきた。
「恒星の寿命で、故郷の星を失いました。どうぞ、私達をこの星に住まわせて下さい。私達の能力が、必ずや皆様のお役に立ちます」
 奴らは、脅すでもなく、賺すでもなく、おとなしく自分たちの船で地球の返答を待った。その間、自分たちの技術を惜しげもなく、次々と地球に移転していた。恐ろしく平和な連中であった。
 奴らの能力は、洞察力と説得力だった。我々地球人の不信感を即座に察知し、全く無用な懸念であると説得する。地球人が議論に負けるわけではない。奴らエイリアンの言うことが、正しいと思うようになるのである。人間は、エイリアンの入植を承諾した。エイリアンは平和裏に、ズケズケと地球に入ってきた。恐ろしく厚かましい連中であった。

 エイリアンは温厚で、決して人間と争うことはなかった。奴らの能力により、あらゆる問題は説得され、人間は奴らと争うべき要因を失ってしまうのだ。
 奴らの見た目は人間と変わらない。極端に温厚で平和的なことを除けば。金を稼いで、人間の家計を支えるエイリアンも多い。次第に配偶者にエイリアンを選ぶ人間が多くなった。エイリアンの方が、より人間性に優れている、そう思うようになったのである。
 俺の家にも女のエイリアンがやってきた。男やもめに押しかけ女房が来たのである。
「私には住むところがありません。どうぞ、私を一緒に住まわせて下さいな。貴方のお役に立ちますことよ」
 エイリアンは、二人で温かい家庭を持つことの確信を説いてくる。俺は断った。人間の女房の方が良い。しかし、彼女は滔々と、俺たちが愛情を築く必然性を説いてくる。遂に俺は承諾した。言い伏せられたのではない。良いかも知れない、そう思うようになったのである。

 女房となったエイリアンは、家事をこなし、近似付き合いにもそつがない。仲間のエイリアンと頻繁に連絡を取るのかと思ったが、女房は家を空ける様子はない。いつも、俺の帰りを待ち、俺のために食事やねぎらいの言葉を用意している。
 仕事で厭なことがあり、不機嫌なまま家に帰ると、女房が笑顔で俺をいさめる。女房にいさめられると、俺の心も解きほぐされる。亭主関白なのか、尻に敷かれているのか良くわからない。
 女房が妊娠した。人間同様、十ヶ月ほどで生まれるという。エイリアンは安産なので、家で出産できる。費用が掛かることもないらしい。初めて出来た自分の子供に、俺は狂喜乱舞した。

 近所のエイリアンも妊娠した。だが、奴は押しかけ亭主だ。隣の押しかけ養子も妊娠した。男も子供も、奴らに次々と子供が出来ていたのだ。単性生殖だったのだ・・・
 俺は女房を問い詰めた。地球を乗っ取るつもりなのか。だが、女房は俺に、笑顔で懇々と説くのであった。「俺たち」の子供が、地球環境を守ること、人類の文化を受け継ぐこと、平和で犯罪のない社会を築くこと・・・

カテゴリー: 超短編小説

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